激突・相乗り…地域の未来、託すのは 10知事選告示

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 統一地方選前半の焦点となる10道県の知事選が始まった。北海道と大分で与野党が激突する一方、首都圏で唯一、知事選がある神奈川では、与野党相乗りの現職に、共産推薦の候補が挑む構図に。地域の未来をかけた選挙戦で候補者は何を訴え、有権者はどんな思いを託すのか。

■神奈川

 神奈川県知事選には、再選を目指す現職の黒岩祐治氏(60)と、元神奈川労連副議長の新顔、岡本一氏(69)の2氏が立候補を届け出た。

 元フジテレビキャスターだった黒岩氏は前回、自民、民主の要請を受けて立候補して当選し、県議会では自民、民主、公明のほぼオール与党態勢を築いてきた。今回は与野党3党に加えて、日本を元気にする会が相乗りで支援し、共産推薦の岡本氏との一騎打ちの構図となった。

 26日朝、横浜市内で出陣式を開いた黒岩氏は「相乗りではなく、一枚岩だ。神奈川を成長戦略の発信地にしていく」と声を張り上げた。一方、岡本氏は横浜駅西口で第一声を上げ、「知事が代われば、子育てしやすい、お年寄りに優しい神奈川をつくることができる」と訴えた。

 候補者の演説会場の近くを通りかかった横浜市保土ケ谷区の会社員、佐久間かおりさん(41)は「少子高齢化が問題だと思うので、良い議論をしてほしい」と期待を込めた。

■北海道

 北海道知事選には4選を目指す現職の高橋はるみ氏(61)と、新顔でフリーキャスターの佐藤のりゆき氏(65)が立候補した。自民党道連と公明党道本部が高橋氏を推薦する一方、佐藤氏は民主党道連や共産党道委員会、維新の党道総支部、社民党道連合、新党大地などの支援を受け、事実上、与党対野党の一騎打ちとなった。

 両候補は26日、札幌市で第一声をあげた。高橋氏は「原発に依存しない北海道を目指す」と述べた。次の知事は北海道電力泊原発の再稼働の判断を迫られる可能性が高く、原発問題は争点の一つだ。高橋氏は道議会と市町村の意見を踏まえ熟慮するとしている。

 一方、再稼働は容認できないとする佐藤氏は「私は脱原発のロードマップをつくる。今回の知事選は、原発脱原発かの住民投票の意味がある」と訴えた。世論が割れた場合は道民投票を実施する考えだ。

 全国を上回るペースで進む人口減少への対応策や道内経済の振興策も焦点だ。高橋氏は「人口減少の危機を突破しなければいけない」と強調。佐藤氏は「1次産業で利益を生む」と、1次産業の高付加価値化を訴えた。

 第一声を聴いた会社員男性(60)は「道内はまだまだ景気回復が遅い。人口減少対策とともに経済対策に力を入れて欲しい」。20代の息子が求職中という自営業の女性(58)は「雇用を生むための具体的な政策を聞きたい」と話した。

■福岡

 福岡県知事選で再選を目指す無所属の小川洋氏(65)は26日午前、福岡市中央区警固公園で出陣式を行った。小川氏を推薦する自民、民主、維新、公明、社民と県農政連の6政党の県議、市議ら約1千人が顔をそろえた。連合福岡会長や九州電力前会長らも出席した。

 小川氏は1期4年の県政運営について、「『県民幸福度日本一』を目指して全力投球してきた。新たに8万7千人の雇用が増え、有効求人倍率は最高水準で推移している。農産物の輸出は過去最高で、暴力団対策も前進した」と実績を強調した。

 その上で、人口減少や地方創生といった新たな課題を挙げ、「福岡県は人口が増えているが、余力のある今こそ対応を急ぐ必要がある。九州を引っ張り、日本を支える気概で全力を尽くす」と訴え、再選に向けて支持を呼びかけた。

 無所属新顔の弁護士で共産が支持する後藤富和氏(46)は、福岡市中央区の商業施設前で第一声。支援者ら約100人が集まった。後藤氏はマイクを手に「原発を停止し、放射能の不安のない福岡県、戦争の恐れのない平和な福岡県を、県民と実現していく」と訴えた。

 約30分間の演説の大半を、原発再稼働や集団的自衛権行使容認といった安倍政権の政策への批判に割いた。「(再稼働手続きの進む)九州電力玄海原発で事故が起きれば、西日本が放射能に覆われる。福岡県の避難計画では県民の被曝(ひばく)は防げない」と指摘し、「脱原発はリーダーが決断すればできる。『脱原発の県』を宣言する」と強調すると、拍手が起きた。

 また、安倍政権が進める安保法制整備についても、後藤氏は「県民の命を守るため、県知事として体を張って抵抗する」と語った。

■大分

 大分県知事選は、4人が立候補した1947年以来の「乱立」選挙になった。

 4選を目指す無所属現職の広瀬勝貞氏(72)は、自民党県連と公明党が推薦。26日午前、大分市であった出陣式には自民党国会議員らのほか、連合大分傘下の一部労組の幹部も出席。広瀬氏は第一声で「地方創生を大分県から先導する。大分県の創生の足がかりをつくっていく大事な時期だ」と語り、安倍政権との協調路線をにじませた。

 共産新顔の山下魁(かい)氏(38)も同市の出発式で「中小企業を応援し、暮らしを再生する県政を」と訴えた。広瀬県政が進めた企業誘致による影響の一つとして非正規社員が増えたと批判し、「大企業に偏った政治を変えなければならない」と県政の転換を主張。社会保障制度の充実などを演説の中心に据え、支持を呼びかけた。

 民主が支援する前大分市長で無所属新顔の釘宮磐(ばん)氏(67)は、同市での出陣式で「中央からモノを言われてその通りにするだけでは、我々は一体なんなのか」と訴え、広瀬氏との対決姿勢を鮮明にした。連合大分の傘下労組の一部の幹部らもかけつけた。「政党色を排除する」として、民主党国会議員は出席しなかった。

 造園業の箕迫(みいさこ)高明氏(65)も立候補を届け出た。

■奈良

 奈良県知事選には、3選を目指す現職で無所属の荒井正吾氏(70)=自民、民主、公明、新党改革推薦=、無所属新顔の山下真氏(46)、共産党新顔の谷川和広氏(36)、無所属新顔の岩崎孝彦氏(44)の4人が立候補を届け出た。

 荒井氏は奈良市で開いた出陣激励会で、自民、民主両党の地元選出国会議員らが並ぶ中で「奈良は確実によくなっている。このまま前に進めさせてほしい」と2期8年の成果を強調。奈良県生駒市の会場には、自民党谷垣禎一幹事長も駆けつけた。

 生駒市長を3期目の途中で辞めて挑む山下氏は政党や組織の支援を受けず、草の根の選挙戦を展開。奈良市での第一声で「フリーハンドで思い切った政策転換が求められている。県政の刷新と奈良の再生をするのは今しかない」と訴えた。

 山下氏は近畿6府県で唯一入っていない関西広域連合への参加を掲げている。だが、荒井氏も「部分参加」に姿勢を転じたため、立場の違いが薄れた。

 谷川氏は子育て中の父親であることを前面に出し、中学生までの医療費無料化などを公約。「安倍内閣に付き従う県政から、命と暮らしを守る県政を目指す」と主張した。

 岩崎氏は海外での事業経験をもとに、人口減少対策などを訴えている。

鳥取

 鳥取県知事選には、無所属新顔の岩永尚之氏(58)=共産推薦=と3選を目指す現職の平井伸治氏(53)=自民、民主、公明推薦=が立った。

 平井氏は「トップリーダーとして地方創生を進めることができる」と主張。岩永氏は「地方創生」という言葉は使わず、「中小企業優先発注で仕事を増やす。いま地域にある力を生かしたい」と強調した。

■島根

 島根県知事選は、共産党公認の新顔で元県議の萬代弘美氏(65)と、3選を目指す無所属で現職の溝口善兵衛氏(69)=自民、公明推薦=が立候補した。

 溝口氏は島根原発松江市)の再稼働や廃炉には「国に責任がある」という姿勢。県庁前で「再生可能エネルギーを増やす」とエネルギー問題に触れたが、原発には言及しなかった。

 萬代氏は事務所前の第一声で、「溝口県政は国のいいなり」と批判。原発から約2キロの恵曇(えとも)公民館前でも演説し、「原発の再稼働は許さない。再生可能エネルギーへ転換を」と訴えた。

■福井

 14基の原発が集中立地する福井県の知事選には、共産党新顔の金元幸枝氏(57)と、4選を目指す現職で無所属の西川一誠氏(70)が立候補。原発をめぐる立場の違いが際立った。

 自民公が県レベルで推薦する西川氏は第一声で原発に触れず、地方創生などを訴え「責任ある原子力・エネルギー政策、廃炉対策、原子力防災」などとする選挙ビラを配るにとどめた。一方、金元氏は「再稼働は認めない。全ての原発廃炉にする、やめる決断をするチャンスだ。再生可能エネルギーの先進地に生まれ変わらせる」と主張した。

■徳島

 徳島県知事選には、無所属で4選を目指す現職の飯泉嘉門氏(54)と、共産党新顔で元県議の古田美知代氏(66)が立候補。過去2回と同じ構図となった。

 飯泉氏は「地方創生の旗手として、徳島は全国から期待されている」とアピール。古田氏は「国にものを言い、悪政の防波堤の役割を果たす県政に変える」などと訴えた。

■三重

 三重県知事選では、県民主医療機関連合会事務局次長で新顔の藤井新一氏(56)=共産推薦=と、再選をめざす現職の鈴木英敬氏(40)=自民、公明、新政みえ推薦=が立候補。それぞれ街頭へ出て有権者に訴えた。

 藤井氏は津市中心街で、「命と暮らしを第一にする県政に切り替えたい。安倍政権の戦争をする国づくりにストップ、それに付き従う県政のあり方にもストップをかけたい」と第一声。

 福祉や医療の必要性を強調し、「県の財政力は全国15位だが、社会保障の予算は下から数えた方が早い」と鈴木県政を批判した。若者支援策にも触れ、「ブラック企業を規制する条例を制定し、学生の奨学金を拡充したい。青年が未来に希望を持てるようにする」と語った。陣営によると約100人が集まった。

 鈴木氏は、津市の津駅前で「この4年間、県民の声に耳を傾けようと1千を超える現場に行った。三重県はもっとよくなる。この流れや歩みを止めるわけにはいかない」と訴えた。

 1期目の実績として「県内への観光客数は過去最高になり、外国人客は4年間でほぼ倍増した。県内総生産や高卒内定率も過去最高になった」と列挙。陣営によると約400人が集まった。応援に、川崎二郎・自民県連会長、中川康洋・公明県本部代表、前葉泰幸・津市長、土森弘和・連合三重会長らが駆け付けた。

 「民主王国」と呼ばれた三重だが、民主は今回の知事選で独自候補擁立を1月末に断念し、告示5日前に鈴木氏推薦も見送った。停滞が表れた節目は2011年の前回知事選だった。

 民主政権ができた09年衆院選で、県内5小選挙区議席は民主4、自民1。これが前回知事選後、12、14年衆院選とも民主2議席、自民3議席と逆転した。参院選では13年に民主現職が自民新顔に敗れ、民主系候補落選は15年ぶりだった。

 民主は今回の知事選で、若く勢いのある現職との戦いを厳しいともみていた。独自候補の擁立には、告示1年前ごろから諦めムードが漂っていた。

 鈴木氏は今回、「県民党」を掲げて広く支持を集めつつ、自公両党以外には推薦を求めず、政策協定も結ばない。民主は不戦敗の道を選んだが、支持基盤の連合三重や民主系地域政党新政みえは、対立候補を支援した前回から一転、鈴木氏への相乗りに転じた。