各党第一声、浮かぶ選挙戦構図 強気の自民、守りの野党

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 衆院選が2日公示され、与野党は12日間の選挙戦に入った。各党首の第一声と演説場所をみると、アベノミクスを前面に出し、民主党の牙城(がじょう)にも攻め込む「強気」の自民党に対し、野党側は争点を多様化しつつ、前・元職の支援に重点を置く「守り」の選挙戦を展開する。初日の攻防に選挙戦の構図がくっきり浮かんだ。

■自民、アベノミクスを前面

 安倍晋三首相は2年前の衆院選と同じく、東日本大震災原発事故の被災地、福島県で第一声をあげた。

 「復興を進めていくためにも、日本の経済を強くしなければならない。アベノミクスが問われる選挙だ」。首相は約19分の演説のうち4割をこうした訴えに割いた。「有効求人倍率は22年間でもっとも高水準」「7〜9月に10万人の正規雇用が増えた」「給与は2%、ボーナスは7%上がった」など具体的な数値を挙げ、有権者にアピールした。

 一方で、2年前には「安全神話のなかで原子力政策を進めてきたことは、自民党にも大きな責任がある」と原発事故への反省も述べていたが、今回は触れなかった。

 首相の第一声が象徴するように、自民党アベノミクスを前面に掲げる戦略だ。官邸幹部の一人は「雇用に観光に年金、良い数字がいっぱいある。民主党は自民の批判ばかりだ」とみて攻めの姿勢を貫く。

 選挙戦略でも強気だ。党独自の世論調査などから、選挙基盤がしっかりした中堅・ベテラン議員のほとんどは手堅い戦いができると判断。安倍首相や菅義偉官房長官谷垣禎一幹事長ら幹部は当選1回の議員の選挙区に加え、特に、民主党幹部の選挙区を狙って応援に入る。

 安倍首相は第一声を終えると、宮城県石巻市に入った。民主党で当選6回の安住淳財務相のおひざ元だ。首相は民主党を名指しして「批判ばっかりしているが、こうすれば雇用が増え、賃金が上がるという代替案を示していない」と攻めた。

 中でも、自民党幹部が重視するのが民主党海江田万里代表の東京1区だ。谷垣氏や菅氏、麻生太郎財務相が入って自民候補を応援する。党幹部は「党代表が小選挙区で落選したら打撃を与えられるし、海江田氏を地元に張り付かせれば、民主党の他の候補者への応援に飛び回りにくくなる」と語る。

 しかし、アベノミクスを前面に掲げる戦略には、党内からも懸念が出ている。

 野党の批判の矛先は、その恩恵が地方や中小企業に及んでいないという点だ。首相が2日、3カ所目に演説したJR仙台駅前では、成果を訴えても通り過ぎる有権者も多く見られた。九州の当選1回の前職議員は「有権者の評価は『仕事はあるが、給料は上がっていない』というもので追い風はない。調子に乗り過ぎると逆効果だ」と話す。

 公明党も景気浮揚の成果を強調する一方、消費税を10%に引き上げる際の軽減税率の導入を訴え、支持拡大を図る。

■野党、争点の多様化を模索

 対する野党は、「アベノミクス選挙」となって埋没しないよう躍起だ。

 海江田万里代表は約14分の第一声で、「雇用が100万人増えたと言うが、ほとんどが非正規だ。一部企業がもうかり、おこぼれが下にくるという発想ではダメだ」と述べるなど、アベノミクス批判に4分近く割いた。

 一方で、特定秘密保護法強行採決や、閣議決定集団的自衛権の行使を容認したことを挙げ、「安倍政権の危うさに皆さんの審判をいただく」と、安倍政治そのものにも矛先を向けるなど、争点の多様化も図った。

 民主党にとっては、自民党が争点を「郵政民営化」に絞り込んで大勝した2005年衆院選への反省があり、今回はまず「争点から逃げず、正面から誤りを指摘する」(党幹部)とする。しかし、アベノミクスだけでは、「相手の土俵に乗るだけだ」(党幹部)として、安倍政権への批判の裾野を広げていく戦略もとる。

 野党第2党の維新の党、江田憲司代表も「アベノミクス第2の矢はあらぬ方向に飛んだ。5兆円だった公共事業費は2倍。これが自民党の体質だ」と批判。約20分の第一声のうち5分以上をこの批判に費やした。

 一方で、民主、維新は「守りの選挙」に徹しているのが実態だ。

 2日に民主党の4人の幹部が応援に入った20選挙区のうち、新顔候補がいるのはわずか二つ。ほとんどは前職、元職のいる選挙区で、党関係者は「当選の可能性があるところを重点的に応援する」という。

 今回の衆院選で立てた候補者198人。全員が当選しても過半数はとれないが、「100議席以上になれば、国会に緊張感が出る」(党幹部)として、まず党勢回復を優先する。

 加えて、他党から民主党入りした候補者の支援を重視する姿勢も目立つ。「将来の野党再編を視野に民主党が核となる姿勢をアピールする」(党幹部)との狙いがある。

 維新の党も守りを固める。橋下徹代表(大阪市長)、松井一郎幹事長(大阪府知事)は、当初検討していた立候補を見送った。「統一地方選に焦点を絞って大阪で戦う」(松井氏)として、党発祥の地で地盤を固める戦略だ。

 このほか、次世代の党の平沼赳夫党首は「自主憲法の制定」、共産党志位和夫委員長は「自共対決が対立軸」、生活の党の小沢一郎代表は「国民の生活が第一」。社民党吉田忠智党首は「平和憲法を生かす」、新党改革荒井広幸代表は「脱原発」を訴えた。