原発論議、かみ合わず 滋賀知事選、3氏立候補

参照元 原発論議、かみ合わず 滋賀知事選、3氏立候補

 滋賀県知事選が26日に告示され、無所属の新顔3人が立候補を届け出た。秋にも原発の再稼働が予想される中、「卒原発」を訴えてエネルギー政策を前面に掲げる候補と、原発政策の争点化を避けて地元経済の活性化などに徹する候補との訴えはかみ合っていない。

 立候補したのは、自民、公明両党が推薦する元経済産業官僚小鑓(こやり)隆史氏(47)、共産党推薦で党県常任委員の坪田五久男(いくお)氏(55)、前民主党衆院議員三日月大造氏(43)。7月13日に投開票される。

■卒原発、そろわぬ足並み

 原発はない滋賀県だが、琵琶湖を含む県北部は、福井県原発から30キロ圏の防災対策重点区域(UPZ)に入り、無関係とは言えない。それだけに今期で退く嘉田由紀子知事(64)が唱える「卒原発」は知事選の論点の一つだ。

 26日の第一声で、嘉田氏が後継と位置づける三日月氏は「原発に依存しない。できるだけ早くゼロにするエネルギー社会をみなさんと作っていく」と述べ、嘉田氏と歩調を合わせた。前回の知事選で嘉田氏は、民主党と協力して史上最多の41万票を獲得。原発ゼロを主張する小泉純一郎細川護熙元首相のコンビとの連携も模索するだけに脱原発を望む勢力からは期待を集める。

 だが、三日月氏の「卒原発」は支持者に波紋も広げる。推薦を決めた連合の内部でも、原発維持を訴える電力総連が「選挙応援は難しい」と伝えてきた。自民党関係者は「関西電力は労使ともこちらに引き込む」と自信を見せる。かつて所属した民主党も「2030年代の原発稼働ゼロ」を掲げるが、原発維持派から「即ゼロ派」までおり、足並みがそろっていない。

 さらに、嘉田氏が生活の党の小沢一郎氏と組み、国政へ打って出たことへの批判もある。「卒原発」を掲げながら、一昨年の総選挙で大敗しただけに、嘉田・三日月コンビがどこまで機能するかが焦点だ。

■政権、再稼働へ争点外し

 一方、安倍政権は悲願の原発再稼働の条件に「周辺自治体の同意」を掲げる。「周辺」の定義はあいまいだが、4月には大間原発青森県)から30キロ圏に一部がかかる北海道函館市が建設差し止め訴訟を起こした。滋賀県も一部が福井県原発のUPZに入る。三日月氏が「立地県並みの安全協定」を求めるのに対し、小鑓氏は「滋賀県知事の権限は非常に限られている」。どちらが再稼働の障壁かは明白だ。

 政権にとって滋賀県知事選は立地県や周辺の「モノ言う首長」を抑え込んでいく意味がある。秋にも見込まれる九州電力川内原発鹿児島県)の再稼働に向け、反原発の世論が高まるのを防ぐ布石でもある。

 それだけに政権は「原発」の争点化を避ける。

 菅義偉官房長官は「(原発が争点と主張するのは)相手の勝手でしょ。争点は景気だ」と26日の会見で語った。アベノミクスの地方への拡大など経済政策を強調し、勝てれば、相手が仕掛けてきた「卒原発」「原発ゼロ」の主張を逆に利用し、政権が目指す原発再稼働に一定の評価を得たことにもする戦術だ。

 自民の石破茂幹事長は26日の滋賀県庁前での応援演説で「小鑓氏は産業政策の専門家。小鑓さんなくして、安倍政権の経済政策はない」と強調したが、13分の演説で原発に全く触れなかった。小鑓氏も26日の第一声で経済再生に力点を置き、18日に滋賀県内で開かれた公開討論会では「私も原発依存度を下げる方向は同じだ。三日月さんの『卒原発』と変わらない」と争点の消去にも努めた。

 一方、坪田氏は「『原発ゼロ』をこの滋賀から発信しよう」と訴えた。今年の都知事選で次点だった宇都宮健児氏や、大飯原発差し止め訴訟で勝訴を勝ち取った福井訴訟原告団長らが応援する。(明楽麻子、三輪さち子)