都構想、論戦再開 維・公・自の市議3氏に聞く

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 出直し大阪市長選で再選された橋下徹市長は24日、さっそく初登庁して職務に復帰した。立ち往生する大阪都構想の局面打開を狙った選挙戦は低調に終わり、反対派が態度を変える気配はない。大阪市議や大阪府議らが都構想の制度設計を議論する法定協議会で議論を戦わせてきた維新、公明、自民の市議3人に、改めて都構想の論点を聞いた。

維新市議団政調会長 吉村洋文さん(38)

 大阪都構想とは、大阪府大阪市の統合再編です。

 今の大阪市は巨大すぎる。我々が調査する限りで、大阪ワールドトレードセンター(WTC)などの大規模事業や不動産投資に1兆6千億円以上を使い、ことごとく失敗してきた。基礎自治体は本来、医療、福祉、教育に集中するべきなのに、お金の回し方を間違っていた。

 大阪市営地下鉄は市外からの利用者が66%くらい。市立の美術館や博物館は70%くらいが市外の利用者。それを大阪市民の税金を使って運営している。大阪府民全体で負担しなきゃいけないものを、大阪市民が負担している。

 今、大阪市は総額で約5兆円の借金を抱えている。市民1人あたりの負担は約160万円で、東京に比べて3倍。にもかかわらず、医療、福祉、教育は充実していない。橋下徹氏が市長に就任するまで、中学校の給食も小中学校のクーラー設置もできていなかった。

 橋下氏は「府と市の役割分担」という都構想の理念にもとづいて、お金を投入すべきところに投入している。教育や子どもにかける予算は、橋下氏の市長就任前の67億円から、新年度は300億円以上に増える見込みです。

 今の大阪市のままでも改革できると言う人もいる。でも、今までできなかったものを、これからしますといっても説得力はない。地下鉄民営化もずっと市議会で継続審議。なぜ実現しないのか。大阪市で持っておきたい、というのがあるんです。大阪市を五つの特別区に分けて適正なサイズの基礎自治体にすれば地下鉄なんて持てない。

 大阪市役所は巨大すぎてチェックができない。五つの特別区に再編して、医療、福祉、教育などの住民サービスに特化すべきだ。

 特別区に移行した当初には、人件費やシステム費といったコストが余分にかかるが、トータルで見たらコストより効果が大きい。20年間で約1375億円の財源が出てきます。詳細なシミュレーションを組めば、初期コストは必ず乗り越えられる数字だと思う。区議の数が増えるなら報酬を減らせばいい。区議会にかかる費用は今の大阪市議会よりも増やさないというのが、我々の考えです。

 都構想が実現すると、今の区役所がなくなるんじゃないかと心配する人もいるが、今の区役所は窓口として残る。大阪市を五つの特別区に分割すれば庁舎が足りないという指摘もあるが、それは今後の設計図づくりで詰めるべき細かな部分。できないものでは絶対ない。だからこそ我々は早く最終的な案を詰めたい。

 オリンピックを思い出してほしい。東京は招致に成功したが、大阪は大阪市が主体となって招致しようとして箸にも棒にもかからなかった。大阪府大阪市が観光政策も経済政策もバラバラにやってきたからです。府と市が同じ組織になって戦略を一本化すれば縄張り争いがなくなるし、意思決定のスピードも速まる。国内、国外に対する存在感が全然変わってくる。

 たとえば、我々はカジノの誘致に賛成の立場。カジノを含むリゾート施設を大阪に呼び込めば、何千億円という経済効果が生まれる。大阪市長大阪府知事が対立したら、東京や沖縄、北海道との競争で大阪の力がそがれる。都構想が実現しても都と特別区との調整は必要だが、都と特別区は役割分担がはっきりしているから、調整は圧倒的にしやすいはずです。

 大阪都は経済、雇用などの成長戦略に特化する。二重行政はなくなります。今の制度と比べたら、都構想にデメリットはない。都構想は住民サービスの充実と大阪の成長に直結する制度改革です。これまで二重行政の不幸せが言われてきたが、本気で取り組んだのは我々だけ。ぜひ住民投票まではさせてもらいたい。

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 よしむら・ひろふみ 1975年生まれ。弁護士。2011年の大阪市議選で初当選し、現在1期目。

■公明府本部宣伝局長 辻義隆さん(52)

 私たちは都構想自体に反対しているわけではありません。住民サービスが身近になることや、大阪府大阪市が一体化して観光客誘致やまちづくりを大胆に進めることには意味があると思う。そのためのツールが都構想という話でした。大阪市の分割はその一部。でも今は、それ自体が目的になっている。

 橋下氏は、特別区にすれば全てが解決するというような言い方をしていますが、これは違います。あくまでも器である「制度」の話。それをつくった後、区長や区議会議員、区民が中身の「政策」をどう進めるかで大きく変わってくるのです。

 例えば、今の大阪市政改革で、公立中学校給食、西成の教育バウチャー(クーポン)といった新しい制度が導入されました。ただ、普及率、活用率はまだまだ。これらの政策は「制度」としてはある程度できあがったものです。後は市長や議員、役所の職員が時間をかけて浸透させ、検証や改善を重ねて「政策」としての効果を上げていく必要があります。

 「大阪都ができれば二重行政がなくなる」というのは、器だけを見て、中身の政策を忘れているんじゃないでしょうか。

 維新は「世界で競争できる大阪都をつくる」と言っている。私も、これまで大阪市ハコモノなどに過剰投資してきた過去はあると思います。それを反省して、出ていくものを削るのがこれまでの行政の作業だった。

 都構想では、入るものを増やしましょうと。都にすることで投資を呼び込むなど、都市の力をつけるという目標があったはずです。都になったら大阪がどう変わるのか。その姿を見せることが必要なのに、特別区の試算が詳しく出される一方で、都については「今の府の試算と変わらない」とされています。

 大阪府は約5兆円、大阪市は約3兆円の借金を抱えている。都構想で大阪市から都に移るのは、港湾や下水道といったお金のかかる事業ばかり。府は今でも新たな借金に総務相の許可が必要なのに、都構想で世界の大都市と同じような力を持てるのか。具体的な青写真は示されていません。

 今の試算は維新大阪府市大都市局で閉鎖的に考えられており、おかしな点がいくつもある。学校などの建物が立っている土地を「売却見込み」として計上していたりする。こんな問題は、大阪市で土地を管理している契約管財局に確認すればすぐにわかるはずです。でもそれをやっていない。

 閉鎖的であっても、その中で活発な議論をしているのならまだわかる。法定協議会の議論を見直してみて下さい。維新の議員は知事や市長の案を追認しているに過ぎない。むしろ都構想を進めている彼らこそが問題点を厳しく追及するべきではないでしょうか。

 橋下氏や大都市局は、もっと他の部局の意見をきいたり、他会派にも相談を持ちかけたりするべきです。我々だって「お金がないんですがどうしましょう」と言われれば、案を出す態勢はありますよ。

 今回の選挙の「引き金」になった区割りの4案から1案への絞り込みについては、やはり賛成できません。もし1案の絞り込みにオーケーを出せば、その案を認めたことになります。計画全体に疑問点がたくさんあるのに、「この案ならいいですよ」とはとてもじゃないが言えない。

 維新は「時間の引き延ばしだ」「制度設計に協力しろ」と言いますが、我々は最初からまともに議論しているつもりです。問題点があれば追及するのが議員の仕事でしょう。それなのに今回、出直し市長選というちゃぶ台返しになってしまったのは、大変残念です。

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 つじ・よしたか 1961年生まれ。元業界紙記者。2003年の市議選で初当選し、現在3期目。

■自民市議団幹事長 柳本顕さん(40)

 出直し市長選の期間中、橋下氏は「都構想で赤字を黒字に変える」と繰り返しました。しかし、示されている都構想の「効果額」は水増しされています。

 例えば年間最大で596億円あるとされている改革効果のうち、地下鉄民営化(165億円)、ごみ事業民営化(79億円)などは、今の大阪市のままでもできる。それらを差し引くと、多く見ても効果は百数十億円程度です。

 百歩譲って全てを「都構想の効果」と考えてみましょう。橋下氏は、20年後には累積で1375億円の自由なお金(活用可能額)が生まれると説明しています。でも、大阪市が一つのまま改革を進めると、この額が2382億円にまで増えます。特別区ごとに置く議会や庁舎、人件費のコストがかからないからです。特別区に分割しない方が「お得」なわけです。

 大阪市をどうやって特別区に分割するか、ご存じですか。いま示されている区割り案は、人口規模を同程度にするために機械的に分けたものです。

 現在の大阪市の24区と違い、特別区は「別々の自治体」です。どこが中心になるのか、地理的、歴史的なつながりや交通網など、住民もまじえた議論をもっとしながら慎重に区割りを決めるべきではないでしょうか。

 人口規模で分けた特別区の財政力の差は、区の間でお金を渡し合う「財政調整制度」で解決すると説明しています。収入の多い区から少ない区にお金を移すというこの方法は、東京都でもやっている。

 ただ、東京都は都も23区も潤沢な収入がある「黒字団体」。余裕のある中でお金のやりとりをしている。一方、大阪は府も市も多額の借金を背負い、国の地方交付税に頼るギリギリの状態です。今の試算は、ある年度の数字を取り出して計算していますが、財政調整による均衡をずっと続けていけるかどうか、不安が残ります。

 土地や建物といった大阪市の資産も特別区に分割されます。このうち、未利用地や使われていない建物などの「普通財産」を住民1人あたりの額に直すと、最少の区(29万円)と最多の区(639万円)の間で最大25倍の差があるのです。財産は「調整」もできません。毎年の収入をならしたとしても、いざというときに売却できる財産には大きな差が残ってしまいます。

 維新の言う「二重行政」というのは極めてあいまいな定義です。例えばプールや体育館が府立と市立で二つあるという。でもどちらも稼働率が高いんです。これが「ムダ」でしょうか。府と市が臨海部に同じような高層タワーを建てたことも二重行政の象徴とされます。あれはバブル経済が残したもので、府と市の二つの自治体があることが原因ではない。

 私たち自民党も都構想の「対案」を一昨年に出しました。大阪府大阪市堺市が一緒に話し合う「広域戦略会議」を設けることでスムーズに業務を分担し、今の区に権限を渡す「都市内分権」を進めて住民サービスを身近にします。橋下氏は「現状では今の公募区長の権限が限界」と言っていますが、現状でも、区長にもっと権限や財源を渡して存在感を発揮できる仕組みはつくれます。

 正直言って我々の対案が世間に浸透しているとは言えません。それは、この改革が制度論であって、住民が実感しにくいものだからです。都市の制度改革はメリットがぱっとわかるようなものではないんです。

 都構想に賛成する市民の気持ちもわかります。我々は、大阪市特別区にしなくてもできる改革の対案を出していますが、これはリフォーム、耐震補強といったもの。都構想という「新築物件」を示されたら、そちらがよく見えるのは仕方ない。でも、物件の間取りや設計図にはおかしな点がいくつもある。拙速に建てた家が地震で簡単に壊れたら、元も子もありません。

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 やなぎもと・あきら 1974年生まれ。関西電力勤務を経て、99年の市議補選で初当選。現在4期目。