公的年金の財政状況 見通しは

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厚生労働省は、およそ100年間にわたる財政状況の見通しを公表し、経済が順調に成長すれば、政府が約束している現役世代の平均収入の50%以上の給付水準をかろうじて維持できるものの、経済が成長しない場合は、最悪で35%程度まで落ち込むこともありうるとしています。
以下で詳しくお伝えします。

財政検証

厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の年金部会が開かれ、厚生労働省は、法律で5年に1度行うことになっている、およそ100年間にわたる公的年金の財政状況の見通し、「財政検証」の結果を公表しました。政府は、現役世代の平均収入に対して、夫婦2人のモデル世帯が受け取る年金額を示す「所得代替率」が、将来にわたって50%を上回ることを法律で約束しており、今年度は、現役世代の平均収入が34万8000円なのに対し、モデル世帯の年金額は満額で、夫婦2人の基礎年金が12万8000円、夫の厚生年金が9万円の合わせて21万8000円で、「所得代替率」は62.7%でした。
そして今回の「財政検証」では、およそ100年間の年金の財政状況について、経済成長の指標を基に、中長期の経済成長率が1.4%の場合から、マイナス0.4%の場合まで、8つのケースで検証しました。
このうち高齢者や女性の就労が促進され、経済が順調に成長することを前提とした5つのケースでは、「所得代替率」が現在の62.7%から、およそ30年後に51.0%から50.6%までの範囲に下がるものの、その後は2110年度まで一定になり、かろうじて50%は維持できるとしています。一方、経済が成長しないことを前提とした3つのケースでは、およそ25年後に「所得代替率」が50%を割り込み、2110年度までの間に、45.7%から、最悪で35%程度までの範囲に下がり、政府が約束を達成するのは難しいという結果となりました。

基本ケース比較

前回・5年前の「財政検証」でモデルケースとされた「基本ケース」と、今回の「財政検証」でそれに最も近いケースを比較しました。
それによりますと、前回の「財政検証」では、その時点で62.3%だった「所得代替率」が、29年後に50.1%まで低下して、その後、一定となるという結果でした。
これに対して今回は、現時点で62.7%である「所得代替率」が、29年後に50.6%まで低下して、その後、一定となるという結果となり、0.5ポイント改善しています。
これは50年後の出生率の予測が、前回は1.26だったのに対し、直近の人口推計で1.35に上がったためです。

受給額見通し

今回の「財政検証」に合わせて、厚生労働省は、年金額の見通しを示しました。
それによりますと、今年度は、いずれも月額で、現役世代の平均収入が34万8000円なのに対し、夫婦2人のモデル世帯が受け取る年金額の満額は、夫婦の基礎年金12万8000円と夫の厚生年金9万円を合わせた21万8000円です。
現役世代の平均収入に対して、夫婦2人のモデル世帯が受け取る年金額を示す「所得代替率」は62.7%です。
これを36年後の2050年度の時点で見てみますと、賃金や物価が上がるとして、現役世代の平均収入は52万7000円になります。
これに対し、夫婦2人のモデル世帯が受け取る年金額は、夫婦の基礎年金13万7000円と夫の厚生年金12万9000円を合わせた26万6000円としています。「所得代替率」は50.6%に下がり、受け取る年金額は増えても、実質的には現在よりおよそ2割減ることになります。
また自営業者などが加入する国民年金の受給額は、サラリーマンなどが加入する厚生年金よりも、さらに減るとしています。
現役世代の平均収入に対し、夫婦2人が受け取る国民年金の受給額の割合は、現在36.8%ですが、2050年度の時点では26.0%まで下がるとしており、実質的な年金額も、現在よりおよそ3割減ることになります。

オプション試算

今回の「財政検証」では、今後の制度改正もにらんで、法律で定められた以外に「オプション試算」と呼ばれる追加の検証も行われました。
「オプション試算」は、主に3つのパターンを想定して、仮に制度を改正した場合、現役世代の平均収入に対して、夫婦2人のモデル世帯が受け取る年金額を示す「所得代替率」のおよそ100年間の変化を検証しました。
その結果、いずれのパターンでも、今の制度より「所得代替率」は改善するとしています。
まず年金額を一定割合で強制的に抑制する「マクロ経済スライド」と呼ばれる措置についてです。
この措置は、物価や賃金がマイナスになるようなデフレ経済の下では適用されないことになっています。
これを物価や賃金がマイナスになっても適用した場合で試算しました。
その結果、現在年金を受け取っている高齢者や、まもなく受け取り始める世代の年金額が抑えられることで、結果的に将来世代が受け取る年金額が増えることから、「所得代替率」は、0.4%から5%の範囲で改善します。
また、現在は20歳から60歳までとなっている国民年金の保険料の拠出期間を、65歳まで5年間延長すると「所得代替率」は6%から6.6%改善します。
さらに、現在、パートやアルバイトなどの短時間労働者は、国民年金に加入していますが、月に6万円程度の収入のある人のうち、週20時間以上働く220万人について、企業も保険料を負担する厚生年金に移した場合、「所得代替率」が0.3%から0.5%改善します。

今後の制度改正論議

今回の「財政検証」の結果を受けて、厚生労働省は、年金制度をより安定的に運営していくための制度改正を検討することにしており、ことし夏以降、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の年金部会で議論が行われます。
具体的には、年金額を一定の割合で強制的に抑制する「マクロ経済スライド」と呼ばれる措置を拡大した場合や国民年金の保険料の拠出期間を今の40年間から45年間に延長した場合、それに一定以上収入のある短時間労働者を国民年金から厚生年金に移した場合など、「オプション試算」の結果も参考に議論が進められる見通しです。
厚生労働省は、年金部会での有識者の意見や、自民・公明両党の作業チームでの議論も踏まえ、必要があれば、年末までに制度改正の具体案を取りまとめて、来年の通常国会に法案を提出することにしています。
ただ、「マクロ経済スライド」の拡大は年金を受け取る高齢世代にとって、また保険料の拠出期間の延長は保険料を支払う現役世代にとって、それぞれ負担が増すほか、短時間労働者を厚生年金に移すと企業の保険料負担が増えることになり、今後の制度改正の議論にあたっては、国民各層や産業界の幅広い理解を得られるかどうかが課題となります。